宮本丈が知れ渡る嬉しさと少しの切なさ | ヤクルトが好き

宮本丈

2021年9月20日(月)
ヤクルト[2-2]広島(神宮)

難攻不落の「森下暢仁×神宮球場」を攻略したのは、ふたりの切り札だった。

この試合の前までの神宮球場における森下の成績は、2試合で1勝0敗、16回を投げ防御率0.00と1点たりとも奪うことができていなかった。この試合でも7回までわずか3安打。我らが石川雅規に援護点どころかそもそも出塁すらほとんどできなかった。

かわいい顔して投げる球がえげつない。150キロを超えるストレートに110キロのカーブ。球速40キロ差の緩急に軒並みやられた。さすが日本代表。金メダリストはやっぱりすごい。

今日もやられるのか──と思いかけた8回の攻撃。先頭のサンタナが打席に入る前からネクストバッターズサークルでは、スタメン出場した9月14日を最後に出場がなかった背番号39が赤ではなく黒いバットを携えて準備を始めた。

今年は代打の切り札に川端慎吾という大きな存在がいる。そのため宮本の出番は少ない。優先度は圧倒的に川端のほうが高いことは誰もがわかっている。それでもみんなに愛され、期待されているのが宮本という男だ。

サンタナが倒れ1死で回ってきた久しぶりの打席でも臆することなく宮本はカウント1ボールからの2球目をライト前へ運んだ。ネクストからは背番号5がゆっくりと歩みを進める。ちょうど3ケ月前の光景が蘇ってくる。

6月20日──7回2死まで勝野昌慶(中日)にノーヒットに抑えられていた。そこから代打・宮本がヒットで出塁し代打・川端が放物線を描いた試合のこと。このときも宮本はカウント1ボールからの2球目を叩いていた。

代打の日本記録を追いかける川端はホームランとはいかなかったが、ヒットでつづく。球界随一の代打陣でチャンスを作った。手拍子とどよめきが止まらない。

1打席しか出番のない男たちが繋いだバトンをレギュラー陣が無下にするわけにはいかない。塩見泰隆と青木宣親のふたりが連続タイムリーを決め試合を振り出しに戻した。

チームが劣勢のときに責任を背負うのは、レギュラーやベテランの役目。ふたりはしっかりと応えた。

代打宮本からの鮮やかな四連打は新聞やニュース、メディアでも大きく取り上げられた。宮本にとってスアレス(阪神)に今シーズン唯一の黒星をつけた決勝打以来の大きな扱いだった。

テレビで代打の紹介があるときも、「左の川端、右の内川(現在は抹消中)、後は坂口もいますね」と名前は挙がってこない。メディアに取り上げられる機会が少ない宮本は、熱心なファンでなければ記憶からすぐに薄れてしまう。

内川聖一がサヨナラ打を決めた試合でも代打・宮本は渾身のバントを決め小さく拳を握っていた。この試合は代打・川端が同点打、代打宮本が送って代打・内川がサヨナラ打の流れだった。もちろん翌日のメディアに宮本の名前は載っていない。

そんな影の男が日の目を見た。代打の神様がふたり、なんて取り上げられ方もあったけど、そんな大それた存在ではない。レギュラーを狙う過程で神になるなんてとんでもない。そんな役割は10年先でいい。

森下攻略より遥かに難しい、そびえ立つ山田哲人と村上宗隆という厚く強靭な要塞に挑むのが宮本という男なのだ。高卒ドラフト1位入団の金の卵がすくすく育った最高傑作のふたりに、大卒ドラフト6位の苦労人が挑む構図はかっこいい。そのどちらかをあるいは一方を超えたときに宮本は神になる。

崇められると少しくすぐったい。多くの人に知れ渡る嬉しさと、ちょっとした切なさがこみ上げてくる。

試合結果:https://www.yakult-swallows.co.jp/game/result/2021000807
※ヤクルト公式HPより

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