2021年9月5日(日)
ヤクルト[1-6]広島(東京ドーム)
小学生の頃、帰りのホームルームで毎日数人ずつ「隣りに座っている○○さんのその日のよかったこと」を発表させる先生がいた。
列によって当たる曜日が決まっていたから、自分の答えなければいけない日はわかっている。だからその日はじっくりと隣の席の人を観察していた。
無邪気な小学生たちは、「小川くん(仮)がゴミを捨ててくれました」とか「山田さん(仮)が消しゴムを貸してくれました」とか「宮本くん(仮)が大きな声で挨拶していました」といったちょっとしたことを次々に答えていた。
隣の席の人と対象が決まっていれば、よかったことを見つけるのはかんたんだったように思う。
それから30年あまりの時が経過した。「よかったこと」をよりも「悪かったこと」を見つける(けてしまう)ことが増えた気がする。ぼく自身もそうだし──年齢は様々だが小学校は少なくとも10年以上前に卒業しているであろう──周りの人の反応もそう。
野球を見ていても選手のよかったことよりも悪かったことにフォーカスされていることが多く感じている。
ヤクルトでいうと村上宗隆や山田哲人、青木宣親といったスター選手はさておき、そうでないレギュラー争い中の選手なんかは、ずっと見ることをしないとなかなか「よかったこと」には気が付かない。だから悪かったことばかり取り上げられてしまう。
ヤクルトで悪かったことが取り上げられやすい選手のひとりが西浦直亨だ。
ショートのレギュラーを期待されながらこの試合の前で56試合に出場し打率.203、ホームランはわずかに2本。6月30日に登録を抹消され(オリンピックによる中断期間があったとはいえ)、2ケ月間は二軍で汗を流していた。今年30歳。若手から中堅になった。二軍暮らしが長く続くと秋が怖くなる。そんな立ち位置だけに、しかたないといえばしかたないのかもしれない。
そんな西浦だが、前日(9月4日)の試合を含めて2試合連続で光った。前日の試合では最初の打席でヒットを放ち、2打席目からは3打席連続の四球。全4打席で出塁を勝ち取り、誰の目にもわかりやすい数字を残した。
一方、この試合では3打数ノーヒット。四球もなく出塁はない。目に見える結果はなにもない。それでもショートの守備では逆シングルからの好送球で場内を沸かした。打席では安打も四球も勝ち取れなかったかもしれない。それでも3打席で17球を投じさせた。
ヒットあるいは四球というわかりやすい結果はない。好守備もダイビングキャッチしたわけではなく、決して派手とは言えないプレーだった。逆シングルではあったけれども、華麗で優雅なプレーかというとそうではなかったように映る。
なんだか地味なプレー。これが西浦を構成している要素の9割以上を占めていると言える。たまにド派手なホームランを打つけれども、それは西浦成分のなかできっと1割もない。むしろ、(いいのか悪いのかはさておき)インパクトはファン感謝デーのほうが大きい。
この日の西浦は熱心なファンでなければ、「よかったこと」を探そうとしてないと見逃してしまうプレーを積み重ねていた。数字に残らなくても献身的に「なんとかしよう」というおもいは見てとれた。
試合は完敗だった。悪いところなんていくらでも出てくる。そんなの誰でも言える。それでも試合を、選手ひとりひとりをじっくり見ていれば、「よかったこと」も同じくらいとは言わなくても見つけることができる。
負け試合が続くとしんどいけれども、よかったことはよかったこととして、”憶測ではなく”見た事実をそのまま語ること。それが野球の楽しみ方のひとつでもある。
試合結果:https://www.yakult-swallows.co.jp/game/result/2021000740
※ヤクルト公式HPより