記憶に残らなくても──宮本丈が見せたプロの技 | ヤクルトが好き

宮本丈

2021年10月7日(木)
ヤクルト[1-0]巨人(神宮)

吐きそうだった。

宮本丈が最重要ミッションを託されたとき、スコアボードは多くの「0」で埋まっていた。両チームの得点はもとより、ヤクルトのH欄も福本豊さんに言わせればたこ焼きみたいだった。

相手投手は菅野智之。今シーズンは不調とはいえ球界を代表するエースピッチャーだ。前回の対戦で8回無失点。ヒットは1本だけ。どこが不調なのか。首をかしげることばかりだった。回が深くなるにつれて3年振り2度目の屈辱も現実味を帯びてくる。

6回。ヒットが生まれない中、先頭のサンタナが四球で出塁する。つづく西浦直亨は送りバントの構え。ネクストには川端慎吾。1死二塁のチャンスを作り、川端の一撃で均衡を破るという青写真がそこにはあった。

しかしことはそう、うまく運ばない。西浦はきっちり送れなかった。2度のファールで追い込まれる。それでも、ここで終わらないのが今の西浦でありヤクルトだ。西浦は粘りに粘りフルカウントまで持ち込むと、最後はユニフォームをかすめる死球で出塁を勝ち取った。

無死一、二塁。状況が変われば作戦も変わる。ネクストの川端は下がり、背番号39が打席へと向かう。川端の一打で先制点を狙うのではなく、宮本が送って塩見泰隆と青木宣親で決める。プランBといったところだろうか。

もっともむずかしいとされる一、二塁からの送りバント。相手は難攻不落のエース。二塁走者は決して足の速くないサンタナ。判断がうまくできるのかも怪しい。責任は重大。

ファン(ぼく)がバントをするわけではない。ただ見ているだけなのに、この場面で代打で起用される少しの誇らしさなんかよりも、極度の緊張感が脳を、胸を、心を支配した。

失敗したら……なんてことは考えなかった。追い込まれる前に見事なバントを決めランナーはそれぞれ進塁。これぞプロ。たくさんのバント失敗を見ているなか、ひときわ光る。

二塁ランナーのサンタナがゆうゆう進塁できた。心の中の張本勲さんが「あっぱれ」を出す。

一仕事を終え、ベンチに戻っていく後ろ姿はかっこよかった。

代打川端、代打宮本、代打内川聖一で決めた7月の広島戦と一緒だ。無死一、二塁からバントを決め小さくガッツポーズしベンチに帰っていったあのサヨナラ劇から3ヶ月ほど。

極限の緊張感に包まれているなかでも宮本は変わらない。吐き気をもよおしそうな役割だって、普段どおりにやってのける。

結果的に得点には結びつかなかったし、サヨナラ劇があったから多くのファンの記憶には残らなない。そんなところも3ヶ月前と同じだ。

なにからなにまで宮本らしい。だからきっと愛される。

試合結果:https://www.yakult-swallows.co.jp/game/result/2021000893
※ヤクルト公式HPより

7月9日の試合:https://yakyu-suki.com/2021/07/10/589/

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