あれから1年。宮本丈の変わったところ、変わらないところ | ヤクルトが好き

ほっともっとフィールド神戸

2021年7月9日(金)
ヤクルト[4-3]広島(神宮)

嶋基宏、川端慎吾、宮本丈、内川聖一。この日代打で起用された4人は全員が自分の与えられた役割をきっちりとはたした。

嶋基宏のバスターエンドランは勝ち越しを呼んだ。川端はあたりまえのように同点打を放ち、宮本がバントでチャンスを拡大。最後に内川が決めた。

宮本の出番は同点の9回無死一、二塁の場面だった。一打サヨナラのチャンスでもある。

代打打率は驚異の5割(12-6)。

「打たせてほしい」のおもいもあっただろう。川端のヒットで負けはなくなった。最悪のゲッツーでも2死三塁でバッターは塩見泰隆。チャンスは続く。トリプルプレーなら珍しいものを見た、とファン(ぼく)はあきらめもつく。

そんなファン(ぼく)のおもいはあっさりと吹き飛ばされた。初球から見せたバントの構えで腹を括る。宮本は難しいとされる一、二塁からのバントを一度ファールはあったけれども、きっちりと決めてみせた。

嶋の泥臭さとも、川端の優雅さとも、内川の食らいつく必死さともなにか違う。雰囲気もなにもかも。大勢の期待を背負って、大勢のファンの前で大仕事をやってのけたのにどこか淡々としていた。感情を爆発されるわけでもない。

ひとり暗い部屋でパズルが解けたときに見せるような表情。一塁を駆け抜けてからベンチへ戻るときに見せた握りこぶしも小さかった。

その姿は1年前と大きく違う。

2020年7月10日──ほっともっとフィールド神戸で巨人対ヤクルトの試合が行われる予定だった。プロ野球が、日本が、世界がこの先どうなるかわからない、そんななかでRe-Startとして設定された日にぼくは神戸にいた。

32年振りに訪れたこの球場──たしか当時はグリーンスタジアム神戸だった──はどこか懐かしい。初めてだった入場前の検温もスムーズに行った。アルコールの販売はない。開いているお店も半分くらい。やっぱり野球っていいなぁ、と試合を見る前からそう感じていた。

思うように”こと”は運ばない。降りしきる雨のせいで試合は中止になった。場内からは落胆のため息。

そのなかで恒例のベースランニングが始まろうとしていた。

ホーム球場の盛り上げ役がやることが通例のこの儀式。なんとこの日はホームの巨人の──ウィーラーのユニフォームを身にまとった──岸田行倫だけでなく、ビジターのヤクルトからも選手が”派遣”された。

三輪正義はすでに現役を引退している。ホームベース付近に出てきたのは背番号39の宮本丈だった。

ふたりで何やら打ち合わせをし、宮本は一塁側へ、岸田は三塁側へ走り出す。30秒ほど経っただろうか。岸田のほうが先にベースを駆け抜けて戻ってきた。タッチの差というよりはもう少し時間が空いてから宮本も無事に生還。起き上がる岸田の後ろで少しの間、立ち上がらなかったのがちょっとだけかわいい。行き場のなくなった熱心なファンへ、ふたりは派手なパフォーマンスを見せ役割を演じきってくれた。

あのパフォーマンスからちょうど365日。宮本は大きく成長した。バントもできて内野も外野も守れる。代打での信頼感を得て自身の立ち位置を確立し、川端や内川といった首位打者たちによい緊張感を与えている。

それでもその根本は変わらない。ときには派手に、ときには地味に──宮本は与えられた役割をそつなくこなす仕事人だ。こういう選手を見ると、野球っていいなぁ、とぼくは思うのである。

1年前と同じ雨が降る試合の中で宮本は地味ながら最高の役割を演じきった。

試合結果:https://www.yakult-swallows.co.jp/game/result/2021000596
※ヤクルト公式HPより

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