「ゆっくりでいい」石川雅規からのメッセージ | ヤクルトが好き

石川雅規

2021年6月4日(金)

ヤクルト[10-1]西武(神宮)

5回裏攻撃途中に降雨コールドが宣告された。その瞬間に石川雅規が自身6年ぶりの完投勝利を決め、同時にプロ入り1年目から20年連続勝利を達成した。どんなにすごい投手でも20年という歳月をかけなければ届かない。ゆっくりとひとつずつ積み上げてきた。

石川のことを語るときに欠かせないのが、「球の遅さ」だ。150キロを超える球を投げるのが当たり前になってきた現代のプロ野球にも関わらず、この試合の最速は136キロ。球場で見ていても明らかに遅い。それでも変化球を織り交ぜて丁寧に投げることでアウトを積み上げてきた。伝統工芸品を作る職人さんのような「術」を雨が降る中、眺めていた。

ヤクルトでは珍しく牽制球が遅い。石山泰稚や清水昇、マクガフといった中継ぎ陣は走者を刺しにいく牽制を投げ込んでいる。速い牽制は、アウトを奪える確率は上がるものの大きなリスクを伴う。石山と清水はボークを取られ、マクガフは無人の一塁に投げ込んだ過去がある。

石川はゆっくりと、まるでキャッチボールをしているかのようなスピードの牽制を一塁へ放る。きっと素人のぼくでも捕れる。刺しにいくというよりは警告、いや注意をしているかのよう。それでもこの日、一塁走者を誘い出しアウトを奪った(記録は盗塁死)。なにが正しいのかわからなくなる。

石川の遅さは投球や送球だけではない。イニングが終わりマウンドから降りるときも一歩ずつゆっくりと歩みを進めていく。なにかを確かめるように、「これが最後かもしれない」と心に刻んでいるのかほんとうにゆっくりだ。外野手がベンチに戻るよりも後に戻ってくることも珍しくはない。堂々としていて麗しい。

この日の勝利で通算174勝となった。大きな節目である200勝まであと26勝。どんなに早くてもあと2年はかかるだろう。現実的にはもっとかかるかもしれない。現在の石川は41歳4ケ月。現時点では山本昌(中日)が42歳11ケ月で200勝に到達したのが最高齢となっている。確実に石川はこれを超える。200勝到達がもっとも遅い、というのもどこか石川らしい。

スピードが優先される現代社会。生きやすくなったのか生きにくくなったのかわからない。けれども石川の生き様が──石川と同い年のぼくには──生き急ぐことに抗い、警鐘を鳴らすメッセージが込められているように思えて仕方ない。

なんだか石川を見ていると、「ゆっくりでもいいじゃない」と優しく語りかけられている感覚に陥るのだ。いやじゃない。この感覚を3年先、5年先、そして10年先まで味わせてくれることを期待している。

試合結果:https://www.yakult-swallows.co.jp/game/result/2021000444

※ヤクルト公式HPより

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