ヤクルトに投打のニューフェースが誕生も埋まらないピース

宮本丈ユニフォーム

ナイターはまだ肌寒いけれども、デーゲームは心地よくビールを飲んだら眠くなりそうな季節になった。残念ながら緊急事態宣言下ということで現地観戦はできないけれども、家から一歩出て同じ温度は感じている。

さて、各球団ともに合流の遅れていた外国人選手たちが一軍で出場しはじめた。それによって多かれ少なかれ故障での離脱者はいるものの、「完全体」に近い形に整いつつある。ここからが本番、といったところだろうか。

巨人にはスモーク(とテームズ)に洗礼を浴びたが、ヤクルトもサンタナとオスナが打線に加わり、サイスニードとバンデンハークが二軍で登板をはじめている。さらには3月末から新型コロナウイルスの影響で戦列を離れていた青木宣親や川端慎吾、西田明央も一軍に戻ってきた。

それだけではない。開幕一軍から外れ、二軍での試合出場のなかった雄平や濱田太貴もすでに二軍で出場をはじめている。また、開幕直後に自打球で負傷し登録を抹消された坂口智隆も二軍ではあるが試合に出場した。

徐々に、徐々にではあるけれども──それこそディアゴスティーニを最初から集めていくように──欠けていたピースが少しずつ揃い始めている。

数多くいる戦士たちの中で誰が一軍に抜擢されるかはわからないけれども、交流戦の前までには戦える形になっていることだろう。いや、なっていてくれないと困る。

◎金久保優斗、松本友と2人のニューフェイスが誕生

完全体になる前にニューフェイスと呼べる選手も誕生した。投手では奥川恭伸……ではなく細い身体から繰り出される糸を引くようなストレートが美しい高卒4年目の金久保優斗。今やチームの大黒柱となった村上宗隆の同期でもある。今年プロ初勝利をマークし、先発ローテーションの座を手中に収めつつある。

圧倒的な速度で神化(しんか)した村上と比べると、4年目の初勝利は遅く感じてしまう。しかし、これが普通なのである。村上が異常なのだ。この呪縛を振りほどかないと何年か後にとんでもなく苦労することになってしまう。未だに多くのファンが捕手を古田敦也と、遊撃手を宮本慎也と比べてしまうように。

そんな金久保は多くの先人達が跳ね返されてきた「高卒投手による先発ローテーション入り」を目指すためにも前半戦が勝負だ。幸いにも今年はオリンピック休みがある。そこまでにどれだけ結果を残すことができるか。これに尽きる。

野手では松本友。「とも」なのか「ゆう」なのか2分の1。答えは「ゆう」である。東福岡高では甲子園に出場しておらず、明治学院大も強豪校ではない。そこからBC福井を経て育成ドラフトでヤクルトに入団。昨年、支配下登録を勝ち取った苦労人だ。

今年も開幕一軍を勝ち取ったわけではなく、特例2021の対象選手として3月31日に一軍に昇格した。実力で文句なしに一軍昇格勝ち取ったわけではない。青木らの代役「だった」のである。なんだかすんなりいかないところが苦労人らしい。

試合前に外野をダッシュをする姿、相手チームのブルペンを見ながら素振りをする姿、どれもまっすぐ。三つ子の魂百まで。兄のかばんを大事に使っていたことが道徳の教科書に掲載されたエピソードを持つだけある。

もちろん人柄だけで一軍に帯同しているわけではない。内外野を守ることのできる左打ちというユーティリティーさもさることながら、打率も3割を超えている。実力も伴っている。

ここまでは一塁と左翼での出場だけだが、シートノックでは二塁を守ることもあり万が一に備えている姿は光って見える。バントのうまさと打撃力を入れ替えた三輪正義(現広報)に近いだろうか。ベンチにひとり置いておきたくなる存在なのだ。

青木らが復帰し外国人選手が合流しても一軍に帯同している。わずか1ヶ月の間で代役ではなくなったのである。開幕前には想像していなかった。

◎埋まらないピース

主力メンバーが揃いはじめ、ニューフェイスも誕生した。一軍昇格を目指し二軍では故障明けの選手たちが若手とともに汗を流している。

これだけワクワク要素が増えると、どんなファンでも一度は思ったことがあるであろう「優勝しちゃうんじゃない?」というモードに入ってもおかしくない。そこまではいかなくとも、多くのファンがポジティブになっていることだろう。

でも、ぼくはなぜかそうならない。「巨人がー」、「阪神がー」といった他球団のことが気がかりかというとそうでもない。「どうせ故障するんでしょ」といったネガティブな要因でもない。

しばらく埋まりそうもない──ぼくにとっての最重要項目でもある──宮本丈というピースがあるからだ。

昨年の宮本は一塁、二塁、三塁、左翼、右翼と5つのポジションでキャリアハイの94試合に出場した。打撃面でも進歩が見られた。なかでも代打安打11本は長野久義(広島)と並んで12球団トップタイだったのである。

今年も山田や村上がいることからレギュラーは難しくとも、「備え」として一軍にいるものだと思っていた。しかし3月20日のオープン戦を最後に姿が見えない。一軍にいないだけではなく、二軍での出場もない。正式な発表はないけれども、おそらくどこか故障しているのだろう。もしくは失踪だ。

「備え」の役目は開幕から太田賢吾が務め、現在は松本が担っている。ニューフェースの誕生は嬉しい。宮本が不在でもあたりまえのようにチームは回っているのだ。考えてみれば、控え選手ひとりの不在でチームが回らなくなる方が異常事態。そう考えると健全と言えるだろう。でも太田や松本との争いに戦わずして負けたという事実はとんでもなく苦しい。嬉しいと苦しいに挟まれている状態というのが正直なところだ。

思い返せば去年はイニング間のキャッチボールに宮本が積極的に参加していた。ファールグラウンドから右翼に坂口や濱田に投げる役目。その姿を毎日、毎イニングごとに眺めては、「それは若手に任せて君はグラウンドの中に立ってほしい」と思っていたことがもはや懐かしい。

今年はその姿すら拝むことができず、二軍のスタメン発表をモニター越しで見つめるだけ。

でも試合には出場していなくても(失踪していなければ)、できる範囲のトレーニングを行っていることだろう。

今はきっと宮本にとって雌伏のときなのだ。然るべきタイミングで、それこそ最後のピースとして一軍に上がってきた時、ぼくにとっての至福のときになる。

いつだってヒーローは遅れてやってくる。

そう信じている。

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