2021年6月23日(水)
広島[5-8]ヤクルト(マツダスタジアム)
両軍合わせて25安打の乱打戦。序盤は取って取られての繰り返し。何点あっても生きた心地がしなかった。オスナの場外ホームラン、村上宗隆の自打球、サイスニードの乱調。いいことも悪いこともあったけれども、兎にも角にもチームは勝った。
負けた試合はもちろん、勝った試合であっても長時間の観戦は疲れる。自宅で椅子に座り眺めながらメモをとる作業は同じだから。
それでもこの日はあまり疲れなかった。4時間近い試合にくたびれなかったのは、天谷宗一郎さんの声が心地よかったからなのだろうか。フェンスによじ登るスーパーキャッチでおなじみの天谷さんは37歳。解説者としてはまだまだ若い。
丁寧な語り口。アナウンサーの問いかけを否定する際にも決して角が立たない。古巣・広島の情報量には劣っていても、ヤクルトのことも観ているんだな、と感じさせることばが溢れてくる。
そんな天谷さんの福井商の後輩にあたる中村悠平が通算1000試合出場の偉業を達成した。天谷先輩は通算844試合出場だから先輩はすでに超えている。ヤクルトの捕手では古田敦也(2008試合)、大矢明彦(1552試合)、八重樫幸雄(1348試合)、根来広光(1017試合)らに続く出場数(捕手以外の出場も含む)になった。すでに球団史に名を残す捕手になった、と言っても過言ではない。
☆
中村が台頭を表してきた2012年以降、チームでは山田哲人や村上宗隆という球界を代表する打者が相次いで出現した。そのため中村の存在感は今ひとつかもしれない。ニュースで取り上げられる日も多くない。
そんな中村が話題になるのは、決まって投手が打ち込まれた日だった。古田や大矢といった歴代の捕手たちと時代が違い、今はSNSやメディアが発達した。負けた日にはあちこちで戦犯探しが行われ、お手軽に投稿されている。ヤクルトで槍玉にあがるのはいつも中村だった。
中村のリードが悪い──どれだけ目にしたかわからない。盗塁阻止やホームラン、この日の送りバントで称賛されることはあれど、圧倒的に批判コメントの方が多い。批判が多いのは人気や期待の裏返しとも言うけれども、それ以上の怨念がこもっているように見える。
ファンが思うほど野球は単純ではない──そんなにリードの悪い捕手が1000試合も出場できるものなんだろうか。
チームの大先輩である古田や阿部慎之助のように圧倒的な打力を誇っていれば、甲斐拓也や梅野隆太郎のように肩で魅せ、「甲斐キャノン」や「梅野バズーカ」といった愛称をつければ、リードに関係なく出場できるのかもしれない。もちろんここに挙げた捕手のリードが悪いという意味ではなく。
でも残念ながら今の中村に古田や阿部のような打力はないし、盗塁阻止率が圧倒的に高いわけでもない(ちなみに今年はセ・リーグ3位の阻止率.273である)。それでも複数の監督に仕えながら1試合、1試合を繰り返し1000試合までコツコツと積み上げてきた。その意味を考えると頭が下がる。
現在31歳の中村が10年後、15年後に現役を引退するとき、どれだけの試合数が積み重なっているのだろう。数字を伸ばしてほしいという思いがある反面、若い捕手が出てこないとなぁという思いもある。葛藤。これは贅沢な悩みなんだろう。古田の幻影にいつまでも縛られていてはいけない。中村だって十分に十分すぎるほど貢献している。
引退するときに偉大さに気がつくのでは遅い。
試合結果:https://www.yakult-swallows.co.jp/game/result/2021000523
※ヤクルト公式HPより