2021年9月25日(土)
ヤクルト[0-0]中日(神宮)
風が吹いている。
わずか1安打。ロースコアの展開でバント失敗が2つにエラーも2つ。宮本慎也さんがベンチにいたならば、テレビカメラは一斉に表情を捉えるであろう、そんなミスだった。それでも負けなかった。
この日の神宮球場は前日までとは打って変わって肌寒かった。少し冷たい風。Tシャツの上にユニフォームを着るだけだと堪えた。試合途中で長袖のシャツを取り出したほど。ホットコーヒーも欲しかった。
神宮球場では坂本勇人のごとく打ちまくる堂上直倫の一撃は、風に押し戻された。あらやホームランのあたりに場内はどよめき、どこからか悲鳴も聞こえた。声を出した応援ができない球場は声が響く。
高津臣吾監督もしくは宮出隆自ヘッドコーチは準備万端だった。打線が手こずる中、打てる手は全部打った。四球2つで2死一、二塁のチャンスを作った7回には元山飛優に代えて川端慎吾を送り込んだ。
ノーヒットに抑え込まれていながら、代打宮本丈と代打川端の劇的な連打で勝利をモノにした試合を思い出す。あの試合でも川端が起用されたのは7回だった。
川端でだめなら宮本がいる。川端で決めきれず無得点のまま迎えた8回は先頭の古賀優大に代打宮本を送った。アウトコース、インコースと立て続けに攻められ2球で追い込まれる。それでも宮本は慌てない。冷静に見極め四球を勝ち取った。まさに宮本アイ。
宮本の打席中にネクストバッターズサークルではサンタナが準備していた。しかし、宮本の出塁によって状況は変わった。コールされたのは山崎晃大朗。ピンチバンターだ。宮本が凡退、もしくはスリーベースを放っていたら、一発や犠牲フライを狙ってサンタナだったのだろう。
ベンチは様々なことを想定し準備している。ファン(ぼく)は意図を読み取ろうとする。
ブルペンも同様だった。先発の高橋奎二が好投していたことで、動き出したのは6回表の石山泰稚が最初と遅かった。結果的に高橋(7回)-清水昇(1回)-マクガフ(1回)と僅差のゲームらしい継投策。それでも準備は万全だった。
7回表、8回表、9回表と3度に渡って大西広樹がブルペンで投げ込んだ。それもピンチになってから作り始めるのではなく。まさに回の途中からの登板前提の投げ込み。火消しには大西がいる。高橋が清水がマクガフがもし何かあっても慌てる必要はない。
通常ブルペンは清水やマクガフという勝ちパターンの投手がマウンドに登ったときには無人になる。それだけの信頼を込めて送り出している投手たちだから当然だ。回の途中での交代などありえない。
それでもこの日は大西が投げ込んでいた。清水もマクガフも3連投ではないとはいえ登板過多であり、優勝争い真っ只中という精神的な疲労。目に見えない重圧が選手たちにのしかかっている。なにが起こるかわからない。それに対する備え。
「おまえたちを信頼しているけど手は打ってある。思い切っていけ」
という高津監督のメッセージに見えた。投手はもちろん守っている野手たちにも伝わっている。ファン(ぼく)も勝手に受け取っている。
滞りなく試合は進み大西の出番はなく試合はスコアレスドローで終わった。もちろん大西の名前は公式記録に残らない。メディアや紙面のどこを探しても話題には登らない。もしかしたら大西の疲労が残っただけなのかもしれない。
それでも打てる手は全部打つ。
「一に準備、二に準備」とは野村克也元監督の有名なことばだ。準備をしっかりするから勝つことができる、そう解釈している。
勝利へ向けた優勝へ向けたその姿勢を貫いた高津監督の準備が風を吹かせた。そんな気がする。
試合結果:https://www.yakult-swallows.co.jp/game/result/2021000834
※ヤクルト公式HPより