2021年10月19日(火)
阪神[11-0]ヤクルト(甲子園)
予定調和なストーリーは簡単に生まれなかった。
群青の空になる手前の17時45分。”時差”が15分あるメットライフドームでは甲子園を沸かせNPB、MLBでも活躍した「平成の怪物」こと松坂大輔(西武)が最後のマウンドに登った。ワインドアップから投じられた118キロの球にすべてが詰まっていた。
甲子園のスターが幕を引いた数十分後に甲子園球場では奥川恭伸がマウンドに登った。奥川は甲子園を制することはできなかったけれども、チームを準優勝に導き鳴り物入りでヤクルトに入団し2年目に覚醒。破竹の勢いで勝ち星を積み重ねてきた。
勝てば翌日に優勝が決まるかもしれない大一番の先発に任されたことが、その信頼感を表している。この試合で快投を見せれば、「甲子園のヒーローから甲子園のヒーローへのバトンが受け渡る」、そんなストーリーを描くことができた。
でもそれは叶わなかった。初回から阪神打線にストレートを捉えられ滅多打ち(本人比)。QSどころか5回も投げきることができずにノックアウトされてしまう。みんなからの期待背負って立って臆病になったとは信じたくない。三塁側のアルプス席から表情は見えなかった。
次代のエース候補がノックアウトされたことで打線が奮起、なんて都合よい展開も生まれなかった。わずか4安打。長打は1本もない。相手先発・青柳晃洋対策でスタメン出場した宮本丈が唯一のマルチ出塁(安打と四球)を見せたくらい。
連勝して甲子園での胴上げもなくなった。現地では「神宮で胴上げできそうで良かったな」と声をかけられる始末だ。
思えば今シーズンのヤクルトも予定調和はまったくなかった。オフに村上宗隆が新型コロナウイルスに罹患し、開幕早々に青木宣親らが新型コロナウイルスの濃厚接触者として離脱した。投手陣では守護神・石山泰稚の不振。近藤弘樹や梅野雄吾も前半戦で姿を見かけなくなった。
漫画や大谷翔平(エンゼルス)───凄まじい努力をしているのは承知の上だ──のようにそうそううまくいくものではない。
栄冠を勝ち取るために試練を乗り越える、日本的ストーリーの相場は決まっている。
奥川もチームもこの悔しさはきっと無駄じゃない。うまくいかないことがあるからこそ深みがでる。この日はそれぞれのストーリーが大団円を迎えるためのちょっとしたスパイス、きっとそう。
試合結果:https://www.yakult-swallows.co.jp/game/result/2021005069
※ヤクルト公式HPより