ヤクルトに今野龍太という投手がいる。2019年まで楽天でプレーし、2020年からヤクルトに加わった右腕だ。
2020年はチーム9位タイとなる20試合に登板した。しかし先発ローテーションに入っているわけではなく、勝ちパターンの一角を占めるわけではない。だからヤクルトや古巣の楽天ファン以外には、あまり知られていない存在かもしれない。勝ち星にセーブはもちろんホールドだって記録していないのだから。
もしヤクルトや楽天ファン以外で知っているとすれば──熱心かつ熱狂的なプロ野球ファンをのぞくと──奪三振率の高さやストレートの質の良さで取り上げられたことに起因するのではないかと思う。
◎石山やマクガフを凌ぐ奪三振率
2020年に今野は25.1回を投げて36三振を奪った。奪三振率で表すと12.79となる。これは、「1試合(9回)を投げたときに12.79個の三振を奪う」といった意味であり、高ければ高いほどいい。
チーム内ではトップの数字だ。2位が石山泰稚の11.69、3位がマクガフの10.17。ともに勝ちパターンの投手たちであり、そのふたりをも今野は凌いでいる。
もうひとつ「三振÷打席数」で表されるK%という指標がある。これは簡単にいうと、「対戦打席のうち何%が三振だったか」を示し、奪三振率同様に高ければ高いほどいい。2020年の今野は113人の打者に対して36三振を奪っており、K%は31.9%となる。こちらも石山(31.2%)とマクガフ(26.7%)を抑え、チームトップである。
また、球団のデータアナリストによるオンライントーク番組では、「ストレートのホップする性質が石山とマクガフよりもよい。(神宮球場において)他球団の投手を含めてストレートで空振りを取れるのがNo.1」と分析されていた。
空振りを獲れるストレートを武器とし、三振を量産していることが、一部ファンには知られるようになった。
◎ブルペンでは目立たない
良質なストレートを持ち、空振りを奪うことができる。さらには石山やマクガフ以上の奪三振率とK%を誇りながら守護神はおろか、勝ちパターンにも入っていない。その理由を──公になっているNPB公式のデータから──ぼくは読み取ることができない。残念ながら。そういった分析は他の方に任せることにする。
さて、球場で見る今野の印象は少し違う。先に書いたとおり、2020年の今野は勝ちパターンのように出番が決まっているわけではなかった。そのため様々な場面でブルペンに入った。
先発投手が崩れそうになると、早い段階から顔を出し、キャッチボールを始める。それこそ1回表から投げ始めることもある。一方でブルペンに複数回入ったにも関わらず登板がなかったことだってあった。
なにかあったら今野がとりあえずブルペンに入る<ときには大下佑馬だったり星知弥だった>。そんな印象だ。ばったばったと三振を奪う投手というイメージはまったくない。ブルペンで投げる投球も目を見張るなにかがあるかと言われると、ぼくには感じ取ることはできなかった。
ブルペンでは、──身長178センチと野球選手にしては──大きくないからかあまり目立たない。その立ち振る舞いも堂々としているようにも見えず、どちらかというとあたふたしているように見えてしまう。
心のなかで、「おいおい大丈夫かよ」と思ってしまうこともあった。そんなぼくの勝手な心配をよそに今野はしっかりと結果を出してきたのである。振り返ってみれば、今野はブルペンにひとりはほしい。そんな存在だった。
2020年の今野が担ったこの役割はチームにとって重要ではあるけれども、目指すべき終着点ではないし、とどまっていてはいけないところである。先発ローテーションや勝ちパターンへとステップアップするための踏み台だ。
はたして2021年の今野はどういう役割でマウンドへと向かうのだろう。願わくば神宮球場の奪三振マシーンとして羽ばたく姿が見たい。
<2020年成績>
今野龍太(ヤクルト)
20試合 0勝1敗 25.1回 奪三振36 与四球13 防御率2.84
[…] そういえばぼくはシーズン前に『「とりあえず今野」からの脱却』というタイトルの記事の中でこう書いた。 […]