“1由伸”がなくても”絶対大丈夫”がある | ヤクルトが好き

絶対大丈夫

2021年11月10日(水)
ヤクルト[4-0]巨人(神宮)

”1勝1由伸”

オリックスは優勝チームに与えられた特権のアドバンテージの1勝に加え、自身15連勝でシーズンを終えた山本由伸の1勝を加味し実質2つのアドバンテージがあることを意味する表現のひとつだ。なるほど。難攻不落の絶対的エースがいるチームに対する賛辞は多くのファン(ぼく)を納得させた。

残念ながら今シーズンのヤクルトには”1由伸”と同等のアドバンテージはなかった。2桁勝利を成し遂げた選手は1人もおらず、なんなら規定投球回にすら誰も届いていない。打線と中継ぎ陣が売りだった前回(2015年)にだって石川雅規(13勝/146.2回)と小川泰弘(11勝/186回)がいたのに、今年は皮肉でもなんでもなく本当に1人もいなかった。

村上宗隆や山田哲人らをはじめとする野手陣は強力だ。でも打線は水物。毎試合ホームランを打てる選手はいないし、毎打席ヒットを打てる選手ももちろんいない。絶対的エースと比べるのは少しちがう。

そんなチームに安心感を与えたのが”絶対大丈夫”の合言葉だった。高津臣吾監督がある試合の前に発したあの言葉。チームスワローズ一丸となれば負けることはない。言葉が持つ力は強い。昭和の根性論に近いが令和の時代にも響いた。選手やチーム関係者はもちろん、世の中に公開されたことで多くのファンも巻き込まれ、そして惹き込まれた。

3年振りに迎えたクライマックスシリーズ。初戦の先発を託されたのは奥川恭伸だった。ちょうど1年前に一軍デビューを果たした。ちょうど3年前には明治神宮大会のマウンドに立っていた。計算していなくてもストーリーが勝手についてくるのが奥川の持っている星なのだろう。

1年前は57球で奪ったアウトは6つだけ。9本の安打で5点を奪われた。容赦なく広島打線がプロの洗礼を浴びせた。それが、この日の57球目はすでに17個のアウトを奪った5回2死一、三塁で迎えた八百板卓丸への2球目だった。屈辱の球数を超えても奥川は変わらない。投じる球だけでなく間合いを使った投球術。ヘロヘロだった1年前とはなにもかもが違う。存分に間合いを長くとった61球目。渾身のアウトローで見逃し三振に封じ込めた。

渾身のガッツポーズ。多くのファン(ぼく)が”奥川なら負けない。”絶対大丈夫”と確信した瞬間でもある。その1球は奇しくも去年の球数を超えた打席で巡ってきたのもおもしろい。

声の出ない神宮球場で盛り上がったのは奥川の一挙手一投足だった。代打が送られたって不思議ではない7回無死二塁の場面で打席に入ったときは大きな拍手が飛んだ。送りバントが定石だけれども奥川にはバスターもある。長いシーズンで1度だけ決めたシーンが蘇る。2ボールからの3球目でバスターの素(そ)振り。また球場が湧く。待ってもいい場面でもある3ボールからの1球をキッチリ決めた。さらに湧く。直後に生まれた塩見泰隆のショート強襲タイムリー二塁打をお膳立てした。

投げてよし、送ってよし。

8回も9回もマウンドに登った奥川はマダックス(9回100球未満の完封勝利)を決めた。その裏側では、もしも、に備えて清水昇(7回裏)とマクガフ(8回裏)が準備をしていた。起こってほしくない”もしも”があっても絶対大丈夫。チームスワローズで勝つから。奥川にナインにそしてファンに送ったメッセージに見えた。備えあれば憂いなし。

程なくして試合は終わった。すべてを終え振り返ってみると奥川が投げる日は絶対大丈夫。そう思っていいよ。絶対大丈夫だから。そう語りかけられているような余韻が残っている。

ヤクルトに”1由伸”はなくても”絶対大丈夫”がある。

試合結果:https://www.yakult-swallows.co.jp/game/result/2021000963
※ヤクルト公式HPより

2020年11月10日の試合結果:https://www.yakult-swallows.co.jp/game/stats/2020111001
※ヤクルト公式HPより

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