自信を持って野球が好きといえる理由

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野球が好き、と言うのはとっても簡単だけれども、「どれくらい好きなの? 」と聞かれると答えるのがなかなかにむずかしい。

好きになってからの年数、今まで観てきた試合数、知っているエピソードの量、読んできた書物や記事の量、投じてきた金額……のようなものではなかなか測れない。

測る人、測ろうとする人はいるかもしれないけれども、ぼくにはしっくりこない。あ、そうですか。で終わってしまう。

でもぼくは、「仕事と私(誰?)どっちが大事なの?」と聞かれると一瞬怯んでしまうかもしれないけど、「仕事と野球どっちが大事なの?」あるいは「私と野球どっちが大事なの?」と聞かれたら即答できる。

「もちろん野球だ」と。残念ながらどちらも聞かれたことはないのだけれども。

現にそうやって仕事を辞めたし、野球に関する仕事に就き、今は野球ライターとしてだけで生計を立てている。野球が好きだからこそ、そうなれた。

コロナ禍の影響があるからなのか、それともないのかはわからないが、「大人がなりたい職業」の1位がライターだという。

今すぐにでもなればいいのに──という感想しか思い浮かばなかった。

始めるにあたって必要なものはパソコンくらい。なんならスマホひとつで始めることだってできる。すでにスマホとパソコン、あるいはそのどちらかは持っているならば初期投資はゼロに近い。今の時代、さすがに原稿用紙とペン一本でライターを始めるのは厳しい、とは思う。

ぼくもパソコンとスマホは幸運にも持っていた。だからライターを始めるにあたっての初期投資はかかっていない。

そして今現在の仕事を辞める必要なんてまったくない。ぼく自身、兼業でライター業を始めた。紆余曲折をほんとにたくさん経て専業となっている。

もともとは会社勤めのなかではじめた副業だった。

会社勤めといっても萎びた零細企業の役員だ。収入はたいしてない。安定など皆無。給与の遅配はなかったけど、役員報酬の遅配はしょっちゅう。取引先への支払い遅延は日常茶飯事。中小零細企業の資金繰りはしんどい。入金がなければ支払いができない。月末月初は催促をし、そして謝罪をしていた。この経験は生きている。

「売上は回収しなければ売上ではない」。個人事業主にせよ法人にせよ資金繰りが大事だと、身をもって感じ取った。あたりまえのように給与が入ってくる世界はなんて恵まれているんだ、と。

そんな生活の中、ライターをはじめた。ライターになったとき、経験、コネ、技術どれもなかった。当初は野球以外のものも多少は書いた。

Bリーグのことグルメのこと、日本酒のこと。どれもこれもいい経験だった──なんてことはまるでない。生活するために書いてたというのが正しい。もちろん適当にやっていたという意味ではなく、好きではないなかで、なんとかこなしていたということだ。

兼業の状態が何年か続いた。といってもほんの数年。その間に野球の仕事が増え、気づいたときには野球のことだけでも生活は成り立つようになっていた。程なくして兼業を止め、専業になった。貯金などもちろんない。それでも怖さはなかった。当時30代後半でまだ身体も動く。もしうまくいかなくても、なんらかのバイトをすればいいだろう、日本は恵まれている、死ぬことなんてない。本当にそう思っていた。

そして今、東京都内で暮らし、神宮球場の年間シートを買い、12球団のファンクラブに入り、贔屓のヤクルトが優勝するかもしれないとなれば遠征に足を運ぶことができている。ぼくは日本一の瞬間を遠征先の神戸で見届けた。

誰しもが知ってるような媒体に連載を持っているわけではない。SNSでインフルエンサーになったわけでもない。自身のブログやサイトでアフィリエイトなどの収入があるわけでもない。ましてや書籍を刊行したわけでもない。名前が売れているかというとまったくもってそんなことはない。それでもやってける。

こういう生活ができるようになった秘訣は、月並みな表現かもしれないけれども”野球が好き”だったからだ。

もちろん努力──という表現が適切かどうかはわからないけれども──はたくさんした。家のことや飲み会、遊びの誘惑……そのほぼすべてを断ち切って野球に捧げた。野球に対して真摯に向き合ってきたし、その時々の自分でできることは全部やった。野球が好きだから苦にはならなかった。

(野球ライターに限らず)なりたいこと、やりたいことがあるのに、日々の業務や生活に忙殺され、あるいは自分には経験が、コネが、技術が、貯金が、ないからと諦めてはいないだろうか。そんな言い訳は捨てたほうがいい。

必要なのは”好き”ということだけ。これがあれば大抵のことは乗り越えられる。

0から野球ライターになるくらい野球が好き。ぼくは自信をもってそう答える。

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